進化したセーリングメディアの陽と陰

  • 11
  • Aug

 4年に一度開催されるオリンピック。進化しているのは選手だけではありません。ニュースを報道する体制もしかり。新しい技術が導入されることにより、セーリングファンにヨットレースのあらたな一面をみせてくれています。今回のロンドン五輪は、ソーシャルメディア(SNS)オリンピックとも呼ばれ、ツイッターやフェイスブックと密接に連動し、さらにスマートフォン用に専用アプリがリリースされるなど、“手軽に詳細な情報が最速で”手に入るようになりました。(BHM編集部)


先端にテレビカメラが取り付けられたボート。テレビを見た方ならわかるでしょうが、強風で波のある海面でも画角を一定に保つ高性能ジャイロが備わっています

 また、普段テレビ中継されることのなかったセーリング競技が、ネットで中継されたため、毎日数時間、予選から視聴できました。解説者はいませんが、細かい情報はツイッターやフェイスブックを通じて秒単位で発信されているので、海に出ている報道機関よりも緻密な情報を持って、オリンピックを観戦できるようになりました。日本のセーリングファンにとって衝撃的な出来事だったといえるでしょう。超一流セーラーの最高にブラッシュアップした技術をリアルタイムで見られるのですから。


オンボードカメラ。接近戦となった470級のメダルレースでは重要な役目を果たしていました


コースの外に追い出され、同じスペースに集められるメディアボート。五輪ではテレビ映像が優先され、フォトボートはかなり遠くからの撮影を余儀なくされているようです。そのため500mm、600mmレンズにテレコンバーター(焦点距離を1.4〜2倍以上に変換するパーツ)を付けて撮影するフォトグラファーも多いとか

 フェイスブックでは、大会主催組織(IOCとISAF)、また各国のファンページ、個人ページで、選手が発信する写真、コメントが流れました。オリンピックでは、五輪憲章・規則40により「選手のジャーナリスト活動」が禁止されています。これはすべての情報発信を禁止しているのではなく、あくまでジャーナリスト活動のこと。選手個人の気持ちや、自分自身の行動を発言することを禁止しているわけではありません。広告、スポンサー活動は禁止されていて、この五輪では、相手選手への避難や社会情勢、国家、人種について発言し、処分された選手もいました。しかし、ソーシャルメディア全盛の今、選手、観客の発言を制限することは現実的ではないし、不可能かもしれません。

 また、この五輪では、バルクヘッドマガジンのようなメディアにショッキングな出来事を確認することになりました。先に紹介したソーシャルメディア、その多くはフェイスブックになりますが、そこでアップロードされる記事や写真が“シェア”というカタチで連鎖的に広まりました。ファンにとって“シェア”は、簡単でうれしい無料のツールです。


世界中のフォトグラファー、ジャーナリストが集まるメディアルーム。このなかでも通信社、新聞社、各国協会所属などグループが分かれています

 さらに、速報性を重視したいと考えるフォトグラファーは、オンボードで撮影した直後に、iPadに取り込んでフェイスブックにアップしていました。たとえば、メダルレースの1上マークの回航シーンは、選手がダウンウインドを走っている間にアップロードされるという驚くべき短時間で作業が進行していったのです。

 バルクヘッドマガジンのように記事を制作する人間にとって、これほど便利なことはありません。しかし、問題は、その写真がフリー(無料)で流れてしまうということ。残念ながら、プロフェッショナル・フォトグラファーの撮影したオリンピックの写真の価値は下がりつつあります(アメリカズカップやボルボオーシャンレースのようなビッグイベントも同様です)。写真や情報が価格破壊を起こしたばかりでなく、SNSにより自由にシェアされるという、恐ろしい時代に突入してしまったのです。

 バルクヘッドマガジン編集部は、フェイスブックを否定しているのではありません。速報性や情報共有という面で大変重宝しているし、シェアされることで便利に使ってもらっています。これも時代の流れなのでしょう。

 ただし、よく考えなければならないのは、メディアの進化ともに情報が溢れすぎて、受け手がその情報をチョイスできず、伝えたいことが伝わらなくなること。また、ジャーナリストやフォトグラファーが極端に少なくなることで(写真や文章が無料で流れてしまい仕事として成立しなくなる)、情報が偏り、一部では情報操作がおこなわれていること。つまり、故意に正しい情報を隠す、またはねじれた情報を流すこともカンタンになったということです。

 実際にバルクヘッドマガジン編集部にもいろいろな組織から、権力をかざした圧力が掛かってきます。これは冗談などではなく、正しい情報を伝えることや、たった一行を書くことが、とんでもなく難しくなることに直面しています。勘の良い方なら、「ああ、あのことか」と思われるでしょう。

 バルクヘッドマガジンの2004年設立当初は、『セーラー同士の正しい情報の共有』が目標でした。それが、個人や組織、大会がウエブサイトで活動を公開するようになり、さらにブログ、ツイッターやフェイスブックといったツールが一般化して、情報があふれるようになりました。しかし、情報が多くなるにつれて、『情報の交通整理』が必要になってきていると感じます。そして、真実を伝えることのむずかしさ。ジレンマ。これからバルクヘッドマガジンの課題になりそうです。


毎朝おこなわれるメディアブリーフィング。当日の予定が発表されます


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