冬のセーリングとブローチング

  • 28
  • Jun

※サンケイビジネスアイ紙で連載していたコラムを紹介します。


ディンギーがブローチング(転覆)したら、船の裏底に伸びるセンターボードに体重を掛けて船を起こす。撮影 平井淳一

コラム(70)
冬のセーリングとブローチング

 12月に入り、海は一段と寒さを増してきた。冬の天気図で特徴的なのは西高東低と呼ばれる気圧配置。日本列島を挟んで太平洋に低気圧、中国大陸に高気圧があり、等圧線が南北に何本も描かれる典型的な冬の気圧配置だ。大陸から日本へ入る強い寒気が日本海側で雪を降らせ、太平洋側には乾燥した北西風をもらたす。

 一般的に冬はセーリングのオフシーズンと言われている。しかし一方では、冬こそセーリングするべきだと言う人も少なくない。その理由は西高東低の気圧配置で、冬はどんな季節よりも安定した強い風が得られるから。風がなければセーリングできない。セーラーの心情からすれば、風がまったくないことは、寒さ暑さをがまんするよりも最悪だ。とはいえ、台風や嵐のように風が強すぎてもダメ。セーリングに適した風を選ぶのは、なかなかむずかしい。

 冬はトレーニングにも最適な季節といえる。しかし、風が強いということは、海はラフなコンディションとなり、ちょっとした操船ミスでバランスを崩し、風や波にあおられて横倒しになる危険がある。この船の動作を「ブローチング」と呼び、また、そのまま転覆してしまうことを英語で「キャプサイズ」、日本語で「沈」(ちん)と呼ぶ。これは、初心者だけでなくオリンピックメダリストでさえ、年に数回、またはそれ以上経験するセーリングする上で避けられない状態である。

 大型のセーリングクルーザーは、ブローチングしても、船のバランスを保つキール(船の中心線に沿って水面下へ伸びる竜骨。重りの役割もある)があるので、振り子のようにゆっくりともとに戻る構造になっている。もし、エンジン付きのパワーボートが転覆したら、人力で復元させるのは不可能だ。その点だけをみれば、セーリングクルーザーは安全な乗り物といえよう。

 しかし、ブローチングの衝撃はかなりのもの。横倒しになる瞬間は、ビルが倒れてくるような大きな衝撃があり、船体がきしみ、セールはバサバサと風にあおられて能力をなくし、人間の力ではまったくコントロールできなくなってしまう。さらに、船が大きく傾くと、風下側にいたら身体が海水にずぶずぶとつかることもある。船体のどこかにつかまっていなければ、海に投げ出されてしまうだろう。

 不思議なもので、何度も経験していると危険を察知する能力が上がるのか、事前に「このシチュエーションは、ブローチングするだろう」と判断できるようになる。この瞬間は、何度体験しても背筋が凍るほど怖いものだ。ブローチングを避けられるようになるには、冬のようなきびしい海でトレーニングするほかない。(2011.12 文/平井淳一)

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